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【第3回】「P」が難しいのはどうして?

2017年6月

高3生はそろそろ総体シーズン。これが終わるといよいよ本格的に受験生としての取り組みが始まりますね。来たるべき勝負の時期に備えてしっかり計画を立てて進めていかなければなりません。これまでにも伝えてきましたが、「PDCA」のサイクルを回していくために、「P」は最も重要な意味を持っています。先月号でお伝えしたように、「P」の作業で最初に準備しておかなければならないのが「目標」です。目標を立てることによってその目標達成のために必要なことが確認でき、そのための計画を立てることが可能となります。
 目標は、例えば「将来の夢と志望校」、「テストの目標得点や目標順位」でもいいでしょう。将来の夢がはっきりと決まっていれば、そのために選ばなければならない学校・学科が絞られてきます。そこが決まればどのくらいの得点が必要なのかがわかります。大学入試の場合は必要な科目もある程度絞られてきます。

①自己分析

 志望校が決まって、必要科目、科目ごとの目標点数が決まったところでいよいよ計画を立てていくわけですが、入試ともなるとテスト範囲は教科書の学習内容全部となるので範囲が広くて何から手をつけていいかわからないという人も多いと思います。ここで必要になってくるのが「自己分析」です。
 例えば英語一科目について、自分はどこまでの内容が理解できていて、どこからが理解できていないのでしょう。内容と一言で言いましたが、英語の成績を上げるための方法を皆さんきちんと理解できていますか。単語を覚えればいいのか。文法を覚えればいいのか。長文を読めればいいのか。単語といってもどのくらい覚えればいいのでしょう。文法・長文といってもどの教材の何から始めればいいのでしょう。最低限右の表のことは確認しておきましょう。

②自己分析の基準は?

 計画を立てる前に確認することはたくさんありますね。しかし最大の問題はこの確認事項を自分一人でチェックできるかということです。何から始めていいかわからないという人ほど、自分の状態をきちんと把握できていないことが多いのです。特に下の表の①~③については、判断を誤ると学習方法が不適切なものになってしまいます。だからこそ、①~③をチェックする際は担当の先生に自己分析をチェックしてもらったり、時間があれば一緒にチェックをしてもらったりするように心がけてください。繰り返しますが、自己分析を失敗するとどんなに時間をかけても全く力がつかないという事態に陥ることもあるのです。科目担当の先生は日々受験指導を行い、入試問題や教材研究をしていますから、皆さんの今の状態に合ったアドバイスができます。自分の立てた計画で学習するということは大切なことですが、その計画をよりよいものにしていくために我々にお手伝いをさせてください。


①何を身につける必要があるのか 可能な限り、定期テストや模試、入試の過去問の形式を知っておく。どんな問題が出題されるのかを把握できれば、やるべきこともより具体的になる。

②自分は今何がどのレベルまできていて、何ができていないのか。

後の「C」の作業を考慮して、ここでも数値による評価ができるのが望ましい。そのうえで、数値をもとにした中間目標を設定し、数値を超えたら合格という形式をとっていく。
③どの教材を使用すればいいのか もちろん学習する内容によって使用する教材は異なることもある。また、①②に合わせた教材を選ばなければならない。人が使っているから自分に合うとは限らない。安易に売り文句をあてにしない。
④どのくらいの頻度でやればいいのか 学習したことを忘れないようにするために、定期的に学習内容を復習する必要がある。「P」の時点で毎週何曜日、または学習日から何日後、何週間後に解き直すなど、復習時期を決めておく。
⑤チェックはどのようにするのか 学習内容が身に付いたかどうかをはっきり確認できるようにするために、チェックテストができるようにしておく。また、合格点も決めておく。

 


③記憶のシステムも計画に

 次に表の④についてです。どのくらいの頻度でやるのか。この項目を見た途端に「復習し終えたのにまた同じところをやり直すのか。」と思った方もいるかもしれません。しかしこれまで学習した内容を定期テスト、模試や入試前に復習した時に意外と忘れていることはありませんか。人間は頭に入れた情報を繰り返して使用しなければ、その情報を記憶BOX(のようなものがあると思ってください)からうまく取り出せなくなります。これが「忘れる」ということです。ですから、学習内容を定期的に見直しておく必要があるのです。1つのことを学習して身につけたら、そこから1週間~2週間ごとに、曜日を決めて復習の日を設けるのが望ましいのです。 


右の資料エビングハウスの「忘却曲線」を見たことがある人も多いことでしょう。人間は覚えたことを1時間で約56%忘れてしまいます。

 ただし、この忘却曲線のデータは、意味のないアルファベットの羅列を記憶し、それをどのくらいの時間帯で忘れるかを記録したものです。学習内容として身につけていく内容にははっきりとした意味がありますから、忘却曲線に比べて多少忘れにくいところもあると言われています。
 多少の誤差があるにせよ、1時間で半分近くを忘れるということには変わりがありません。学習した後の復習というのは本当に大切です。

④記憶のシステム


 右の図に示されたものが記憶のシステムです。頭に入れた情報はまず必要かどうかを判断され、必要と判断されたら「短期記憶BOX」に入れられます。この「短期記憶BOX」では記憶の保持時間がほんの数十秒しかありません。小テストが実施される授業の直前に漢字や英単語や数学の公式などをぶつぶつ言いながら覚えている人がいます。前もって練習してきているのであれば問題ないのですが、その時にしか練習していないのであれば、小テストが終わる頃には既に思い出せなくなっている可能性が高いのです。これでは定期テストや模試、入試で目標を達成できる力はつきません。
 「短期記憶BOX」では数十秒の間に再度この情報は必要かどうかが判断され、必要と判断されれば「中期記憶BOX」に入れられます。「中期記憶BOX」での記憶保持時間は数時間から1ヶ月程度。これって、授業で学習していたことをその日の間は覚えているけれど、翌日になると忘れてしまっているというパターンですね。まさにエビングハウスの忘却曲線が示している通りです。また、最長で1ヶ月程度となっていますが、1ヶ月というと定期テストが終わってから次の定期テストまでの期間がだいたいそのくらいです。つまり、定期テストで出題され、高得点をとっていた学習内容でも、いざ入試のために復習しなおそうとすると思っていた以上に思い出せないことがたくさんあるのはこの「中期記憶BOX」の時点で思い出せなくなってしまっているからなのです。
 「中期記憶BOX」に入れられた情報は更に必要かどうか判断されます。ここで、必要と判断される基準は前述もしましたが、繰り返しこの情報を使うことがあるかどうかなのです。情報に何度もアクセスして、脳が「この情報は必要だ」と判断すれば「長期記憶BOX」に入れられ定着することになるのです。かけ算の九九、漢字や英単語などは、何度もその情報にアクセスしたからこそ「長期記憶BOX」に入れられた情報だったのです。

※脳科学では本来「中期記憶」と呼ばれるものは存在しません。説明の中で「中期記憶」を設定した方がわかりやすく説明できるため、本資料では「中期記憶」という表現を使用しています。

⑤記憶するということ

 さてここで記憶のメカニズムについて説明します。まず、人間は外から入ってくるいろいろな情報を脳の中にinputします。これを①「記銘」といいます。この「記銘」の能力は個人差があまりないと言われています。次に「記銘」された記憶を②「保持」します。よく言われることですが、「記銘」された情報は脳の中に蓄積され、消えていくことはないのです。ではなぜ物事を忘れてしまうのか。それは記憶が消去されたのでなく、思い出せなくなっているだけなのです。その思い出すことを③「想起」といいます。脳の中にはたくさんの情報がありますが、その中から必要な情報を取り出すことが「想起」なのです。加齢により記憶力が衰えると言われますが、これは年齢を重ねることで脳の中には若いころよりもたくさんの情報が入っており、その影響で必要な情報が取り出しにくい、つまり「想起」しにくい状態にあるために起こる現象なのです。極端に言うと「記憶力」=「想起力」とも言えるわけです。ですから、「想起力」を強化することが「記憶力」の強化にもつながっていくのです。
 前述した「短期・中期・長期記憶」の項目と比較してみると「記銘」=「短期記憶」、「情報へのアクセス」=「想起」となるわけです。学習の際に反復練習「output」は重要だと言われてきましたが、脳科学の観点からも根拠があることだったのです。
 反復練習、特に漢字や英単語を繰り返し書いて練習するということはとても面倒なことです。だから敬遠してしまい、練習を怠る人も多いのですが、「何度も練習しなければ『想起力』が上がらない」ということを知っておいてください。

⑥具体的な計画を立てる

 自己分析ができたら、今度はいよいよ具体的な計画を立てていきます。自己分析の時点で、どの教材を使って、どのくらいの頻度でどのようにチェックしていくかは決まっていますから、後は自分の使える時間のうち、どの日のどこの時間でどの教科をやるのか割り振っていきましょう。
 もう1つの注意点です。今から立てる計画はいつまで実施していくものなのでしょう。入試まで。それはちょっと長すぎますね。次の定期テスト、模試まで。計画の内容によってはそれすらも長いかもしれません。そもそも今から作ろうとしている計画の目的は何でしょう。テストで成績を上げることであればそのテスト終了まで。苦手ポイントの克服が目的であれば苦手ポイントの復習終了まで。入試や模試のように、実施日までに長い期間がある場合は、中間目標をいくつか設定して、そこまでの計画がうまくいくかをチェックした方がいいでしょう。そう「C」が定期的に入っていかなければ計画はなかなか長続きしません。今立てている計画をいつまで継続していくのかも最初に決めておきましょう。
 受験生の皆さんは早めの受験勉強の姿勢作りをしなければなりません。それ以外の皆さんも、6~7月は期末テストが実施されます。期末テストで目標を達成するための計画をそろそろ作り始めていきましょう。先月号でも触れましたが、テスト期間だけの頑張りではなかなか差がつきにくいものです。重要なのはテスト期間に入るまでの時間の使い方です。そこを再度把握したうえで、まずテスト発表までの計画から作ってみましょう。
 さて、計画は立てられました。「P」が立てられたのであれば次は「D」、いよいよ実行に移していきます。実行そのものは計画通りに進めていくわけですから、計画に問題がなければスムーズに進むはずです。計画に問題があれば「C」評価して「A」改善のための対策を立てなければいけません。しかし、問題は「D」の途中で挫折してしまうという人も決して少なくないということです。「PDCA」のサイクルに限らず、計画を立てたものの挫折という人は意外と多いものです。なぜ挫折することになってしまうのでしょう。


次回は「D」を妨げる様々な障害と、「P」を実行する仕組みづくりについて説明していきます。


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